【宮沢賢治絵本原画展 : 第三十五作】
『北守将軍と三人兄弟の医者』
作 : 宮沢賢治 絵 : スズキコージ
編集 : 松田素子

 

会期 ‖ 2022年3月12日(土)- 4月24日(日)
開館時間 ‖ 11:00 – 18:00(時間短縮中)
休館日 ‖ 火曜日(祝日の場合はその翌日)
入館料 ‖ 無料
会場 ‖ フリッツ・アートセンター / ギャラリー

 

 

2008年の春に始められた〈宮沢賢治 絵本原画展〉も、35作目となりました。
「北守将軍と三人兄弟の医者」(ほくしゅしょうぐんとさんにんきょうだいのいしゃ)は、宮沢賢治の数少ない生前に発表された童話(1931年7月「季刊誌・児童文学」)。
北守将軍ソンバーユーに起きた摩訶不思議な状況を三人兄弟の医者がどう解決していくのか、賢治には珍しい、痛快で荒唐無稽な物語。
日本を代表する絵本作家 スズキコージ独特の異国情緒溢れる絵で魅せる傑作絵本です。

 

◉ 全50点(大全紙 36点 他)
◉ 使用画材:油性ボールペン・色鉛筆・クレヨン / 用紙:水彩紙(ファブリアーノ)

 

 

◉ 作者プロフィール
スズキコージ
1948年、静岡県浜松市生まれ。
高校卒業後、多くの美術大学や東洋大学などにモグリの学生として出入りしながら時代の風をあびていく。東京・赤坂の天ぷら屋で住み込みのバイトをしながら絵を描いていた時に、アートディレクターの堀内誠一氏に見い出され、「平凡パンチ」誌上などでの活躍が始まる。1971年に、『ゆきむすめ』(岸田衿子/文 世界文化社 その後ビリケン出版で復刊)で絵本画家としてデビュー。
主な絵本に、小学館絵画賞を受賞した『エンソくん きしゃにのる』(福音館書店)をはじめ、『サルビルサ』『やまのディスコ』『大千世界の生き物たち』(以上、架空社)など多数。『ドームがたり』(アーサー・ビナード/作 玉川大学出版部)で日本絵本賞受賞。画集に『スズキコージの大魔法画集』(平凡社)、『天のすべりだい』(BL出版)がある。
出版物にとどまらず、ライブペインティングを含むその活動は圧倒的な魅力を放っており、2019年にNHK・Eテレの美術番組「日曜美術館」で、「絵が語る僕のすべて 絵本作家・画家スズキコージの世界」が放映され話題となった。

 

ミキハウス ◎ フリッツ・アートセンター 協働事業
後援 ‖ 群馬県・群馬県教育委員会・前橋市・前橋市教育委員会・各報道機関

 

フリッツ・アートセンター
前橋市敷島町240-28(敷島公園内)
TEL 027-235-8989
WEB theplace1985.com

 

ものがたり

1985年「カフェ」 1993年「本屋」 2009年「映画館」 2014年「the place」
そして 2019年〈絵本みたいな場所〉へ

〈絵本みたいな場所〉という物語は、1985年の “カフェ RITZ" からはじまります。
大きな公園の森のなかの、石でできた四角いおとこの建物です。
30種類のオムレツとキッシュと庭の結婚式が評判のカフェでした。
しばらくして、ひとりぼっちだった RITZ にパートナーができます。
すぐとなり、百年の杉の木の下の、赤くてまるいおんなの子の建物で、
RITZ に女性の「F」をつけて "F-ritz art center" と名づけることにしました。1993年のことです。
その時の《1+1=1》というコンセプトは、より多くとか、より早くとか、より高くということではなく、
変らぬ毎日の営みのなかで、すこしずつ円周を拡げていこうとするものです。
そう、ひとつの水滴にもうひとつの水滴を置いていくかのように …。

『絵本屋』『タンタン・ボックス 前橋店』『ポスター・ボックス』
『美容室』LE SALON、『家具屋』RETRO BOX .....。

「クリスチャン・ボルタンスキー展」と「くまのプーさん絵本原画展」をオープニングにしたギャラリーでは、
数多くの新たな表現が生まれています。
《賢治の全童話を絵本に》と始められた「宮沢賢治絵本原画展」も、第十三期30作目になります。
同時に《街を 街そのものを美術館に 劇場に》を合い言葉に、街にも出かけて行くようになります。
家具店跡をギャラリーに、スーパーマーケット跡を劇場に、商店街の通りをサーカス会場に、
百貨店跡をパフォーマンス・スペースに、アーケード内を映画館に、県庁前広場をキャンプ場に、
銀行跡をライヴ会場に、消防署跡をアートセンターに ...。
空き地で子どもたちが新しい遊びを発明するように、使いかたを工夫しながら、
アートによって空間を再生していこうとする、壊しては作るという時代への抵抗の始まりです。
2009年には空きデパートの中の映画館跡を再生。
地方では珍しい名画座として「シネマまえばし」を開館します。
これは《1回 一万人というイベントではなく 毎日30人1年で一万人を 街に》というコンセプトで、
失われつつある「日常性」と「つながりあう気持ち」をゆっくりと恢復していこうとするものです。

そして、フリッツ・アートセンターは 今。
成長に代わるまったく新しい豊かさのあり方を見つけるために、
35年かけて創った小さな物語と、そこから生まれた価値観を見直し、
未来から今を思い描き、変化を恐れずに、また動いて行こうと思います。
考え過ぎると厄介なことになると知っていて、何を見ても無感覚でいなくてはならないような時代に生きて。
たとえ小さくても、ここからだけしかできない「確かなこと」と「生きやすい」場所への鍛え直し。
主流や時流や大きな力に、抗うことでも、拠ることでもなく、
ただ『絵本みたいな場所』という新しい眺めをつくってみること。

《絵本みたいな場所》

絵本作家・ミロコマチコさんが、シンガー・あがた森魚さんの宮沢賢治朗読で、ライブペインティングした15個の本棚。
フランスから10トンもあるパン窯を運んで建った〈公園の薪窯パン屋〉の開店。前庭にたくさんの子どもたちと植えた〈百年のモミの木〉と、地面そのものを〈花花の椅子〉にするために育てるクレピア ....。
日替わりで若いロースターが淹れる〈コーヒースタンド〉のセルフビルド。中庭に、若い人たちと掘る、小鳥たちのための〈そらの井戸〉と、檸檬の苗木をたくさん植え造る〈果樹園〉。
そして、絵本作家・荒井良二さんと、共に紡ぎ始める「願いが叶う庭」、〈カナウニワ〉の国の物語。

『カナウニワ』

この場所はきっといつかの夏の日。薪窯で焼けたばかりのライ麦パンと、井戸水と獲れたばかりの檸檬を絞ったレモネードと、古い古いお話の絵本を抱えた子どもたちが、50メートルにもなるモミの木の下で、近くの森での遊びの相談をしているわけで。

そんな木陰を 今からつくっておきたい。

あまりにもきれいな夕焼けに立ち止まってみること。
あまりにも美味しいいつもの水に驚いてみること。
そして、それを誰かに伝えようとする気持ち。
あたらしいひと。あたらしい世界。あたらしい幸福。
街の喧噪の、森の静寂の中、遠くを旅するより、近くを冒険するひとのために。
大好きだと言えるひとのために。その笑顔のために。
そして、
子どもたちの 子どもたちの 子どもたちのために。

フリッツ・アートセンター