ぼ く』
絵本原画展
詩 ‖ 谷川俊太郎 絵 ‖ 合田里美

 

 90歳を迎えた詩人、谷川俊太郎さんの詩による、合田里美さんはじめての絵本作品『ぼ く』(2022年 / 岩崎書店)の原画展。
これは、死をめぐる絵本シリーズ〈闇は光の母〉(谷川俊太郎・命名)の一冊として刊行された絵本で、先日 NHK Eテレ “ETV特集” で、絵本の制作過程を追ったドキュメンタリーが放映され、大反響を呼んだばかり。
谷川俊太郎さんが「生と死」と深く向かい合い言葉をつむぎ、新進気鋭のイラストレーター・合田里美さんが美しい日常風景で彩る絵本の原画の全てを展示致します。

 

『死を重々しく考えたくない、かと言って軽々しく考えたくもない、というのが私の立場です。死をめぐる哲学的な言葉、死をめぐる宗教的な言葉、果ては死をめぐる商業的な言葉までが氾濫している現代日本の中で、死をめぐる文と絵による絵本はどんな形でなら成立するのか、この野心的な企画はそれ自体で、より深く死を見つめることで、より良く生きる道を探る試みです。』谷川俊太郎

 

『ぼ く』
絵本原画展
詩 ‖ 谷川俊太郎 絵 ‖ 合田里美

 

会期 ‖ 2022年4月29日(金・祝)- 6月5日(日)
開館時間 ‖ 11:00 – 18:00(時間短縮中)
休館日 ‖ 火曜日(祝日の場合はその翌日)
入館料 ‖ 無料
会場 ‖ フリッツ・アートセンター / ギャラリー
協力 ‖ 岩崎書店 / 野分編集室
後援 ‖ 群馬県・群馬県教育委員会・前橋市・前橋市教育委員会・各報道機関

 

 

〈プロフィール〉
谷川俊太郎 たにかわ しゅんたろう
詩人。1931年東京生まれ。1952年第一詩集『二十億光年の孤独』を刊行。1962年「月火水木金土日の歌」で第四回日本レコード大賞作詩賞、1975年『マザー・グースのうた』で日本翻訳文化賞、1983年『日々の地図』で第三十四回読売文学賞、1993年『世間知ラズ』で第一回萩原朔太郎賞など受賞・著書多数。詩作のほか、絵本、エッセイ、翻訳、脚本、作詞など幅広く作品を発表している。

 

合田里美 ごうだ さとみ
1984年兵庫県生まれ。MJ イラストレーションズで学ぶ。書籍装画、挿絵、広告などを中心に活動。書籍装画の仕事に『一膳めし屋丸九』シリーズ(中島久枝・角川春樹事務所)、『あたしたち、海へ』(井上荒野・新潮社)、『金の角持つ子どもたち』(藤岡陽子・集英社)、児童書の仕事に『その年、わたしは嘘をおぼえた』(ローレン・ウォーク 訳 中井はるの 中井川玲子 さ・え・ら書房)、『12歳で死んだあの子は』(西田俊也・徳間書店)などがある。

 

フリッツ・アートセンター
前橋市敷島町240-28(敷島公園内)
TEL 027-235-8989
WEB theplace1985.com

 

ものがたり

1985年「カフェ」 1993年「本屋」 2009年「映画館」 2014年「the place」
そして 2019年〈絵本みたいな場所〉へ

〈絵本みたいな場所〉という物語は、1985年の “カフェ RITZ" からはじまります。
大きな公園の森のなかの、石でできた四角いおとこの建物です。
30種類のオムレツとキッシュと庭の結婚式が評判のカフェでした。
しばらくして、ひとりぼっちだった RITZ にパートナーができます。
すぐとなり、百年の杉の木の下の、赤くてまるいおんなの子の建物で、
RITZ に女性の「F」をつけて "F-ritz art center" と名づけることにしました。1993年のことです。
その時の《1+1=1》というコンセプトは、より多くとか、より早くとか、より高くということではなく、
変らぬ毎日の営みのなかで、すこしずつ円周を拡げていこうとするものです。
そう、ひとつの水滴にもうひとつの水滴を置いていくかのように …。

『絵本屋』『タンタン・ボックス 前橋店』『ポスター・ボックス』
『美容室』LE SALON、『家具屋』RETRO BOX .....。

「クリスチャン・ボルタンスキー展」と「くまのプーさん絵本原画展」をオープニングにしたギャラリーでは、
数多くの新たな表現が生まれています。
《賢治の全童話を絵本に》と始められた「宮沢賢治絵本原画展」も、第十三期30作目になります。
同時に《街を 街そのものを美術館に 劇場に》を合い言葉に、街にも出かけて行くようになります。
家具店跡をギャラリーに、スーパーマーケット跡を劇場に、商店街の通りをサーカス会場に、
百貨店跡をパフォーマンス・スペースに、アーケード内を映画館に、県庁前広場をキャンプ場に、
銀行跡をライヴ会場に、消防署跡をアートセンターに ...。
空き地で子どもたちが新しい遊びを発明するように、使いかたを工夫しながら、
アートによって空間を再生していこうとする、壊しては作るという時代への抵抗の始まりです。
2009年には空きデパートの中の映画館跡を再生。
地方では珍しい名画座として「シネマまえばし」を開館します。
これは《1回 一万人というイベントではなく 毎日30人1年で一万人を 街に》というコンセプトで、
失われつつある「日常性」と「つながりあう気持ち」をゆっくりと恢復していこうとするものです。

そして、フリッツ・アートセンターは 今。
成長に代わるまったく新しい豊かさのあり方を見つけるために、
35年かけて創った小さな物語と、そこから生まれた価値観を見直し、
未来から今を思い描き、変化を恐れずに、また動いて行こうと思います。
考え過ぎると厄介なことになると知っていて、何を見ても無感覚でいなくてはならないような時代に生きて。
たとえ小さくても、ここからだけしかできない「確かなこと」と「生きやすい」場所への鍛え直し。
主流や時流や大きな力に、抗うことでも、拠ることでもなく、
ただ『絵本みたいな場所』という新しい眺めをつくってみること。

《絵本みたいな場所》

絵本作家・ミロコマチコさんが、シンガー・あがた森魚さんの宮沢賢治朗読で、ライブペインティングした15個の本棚。
フランスから10トンもあるパン窯を運んで建った〈公園の薪窯パン屋〉の開店。前庭にたくさんの子どもたちと植えた〈百年のモミの木〉と、地面そのものを〈花花の椅子〉にするために育てるクレピア ....。
日替わりで若いロースターが淹れる〈コーヒースタンド〉のセルフビルド。中庭に、若い人たちと掘る、小鳥たちのための〈そらの井戸〉と、檸檬の苗木をたくさん植え造る〈果樹園〉。
そして、絵本作家・荒井良二さんと、共に紡ぎ始める「願いが叶う庭」、〈カナウニワ〉の国の物語。

『カナウニワ』

この場所はきっといつかの夏の日。薪窯で焼けたばかりのライ麦パンと、井戸水と獲れたばかりの檸檬を絞ったレモネードと、古い古いお話の絵本を抱えた子どもたちが、50メートルにもなるモミの木の下で、近くの森での遊びの相談をしているわけで。

そんな木陰を 今からつくっておきたい。

あまりにもきれいな夕焼けに立ち止まってみること。
あまりにも美味しいいつもの水に驚いてみること。
そして、それを誰かに伝えようとする気持ち。
あたらしいひと。あたらしい世界。あたらしい幸福。
街の喧噪の、森の静寂の中、遠くを旅するより、近くを冒険するひとのために。
大好きだと言えるひとのために。その笑顔のために。
そして、
子どもたちの 子どもたちの 子どもたちのために。

フリッツ・アートセンター